小川未明

 人魚は、南の方の海にばかり棲んでいるのではありません。北の海にも棲んでいたのであります。  北方の海の色は、青うございました。ある時、岩の上に、女の人魚があがって、あたりの景色を眺めながら休んでいました。  雲間から洩れた月の光がさびしく、波の上を照していました。どちらを見ても限りない、物凄い波がうねうねと動いているのであります。  なんという淋しい景色だろうと人魚は思いました。